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3.4 技術と賃金不平等編集

賃金と所得の不平等のもう一つの決定的要因は技術である。多くの文献がアメリカとイギリスでの不平等の上昇の説明として、スキル偏向型の技術変化を強調している(そのサーベイとしては、Katz and Autor, 1999, あるいは Acemoglu, 2000, などを見よ)。上に述べた我々のフレームワークにおいては、方程式(3)が、スキルプレミアムは A_{h}/A_{l} に依存していることを示しているが、この A_{h}/A_{l} は低教育労働者の生産性に対する高教育労働者の生産性の比率として理解できるものである。この相対的生産性の変化がどのようにスキルプレミアムの変化に変わるかは、代替の弾力性に依存する。

代替の弾力性が1よりも大きい、つまり \sigma > 1 ならば、


\frac{\delta A_{h}/A_{l}}{\delta w} > 0


となることは明らかだ。

これはつまり、高教育労働者の相対生産性の改善がスキルプレミアムを引き上げるということだ。図1を使って述べると、A_{h}/A_{l} の上昇は相対需要曲線を右にシフトさせて、一定のスキルの供給のもとでスキルプレミアムを増加させる。その為、社会の中での一定のスキル分布において、その変化の結果として賃金と所得の不平等が上昇する。A_{h}/A_{l} の上昇はスキル偏向型の技術変化だとみなすことは自然だろう──それはスキルなし/あまり教育をうけていない労働者よりも、スキルあり/高い教育をうけた労働者に対して多く報いる変化なのだ。

スキルあり労働者の生産性の上昇が必ずしも賃金の不平等につながるわけではないことを理解しておくことは大切だろう。代替の弾力性が1以下ならば、つまり \sigma < 1 ならば、スキルなし労働者の生産性、A{l}、に対するスキルあり労働者の生産性、A_{h}、の改善は相対需要曲線を左にシフトさせてスキルプレミアムを減少させる。一見、このケースは奇妙なものに思えるが、しかし実のところとても当たり前のことなのだ。たとえば、一定比率型の効用関数を考えてみよう。このケースでは、A_{h} が上昇して高教育労働者がより生産的になった時、その為に需要が増えることとなった労働集約財の生産に必要な低教育労働者への需要が増加する。ある意味、このケースでは、A_{h} の上昇はスキルなし労働者の数一定の下でスキルあり労働者の「超過供給」を引き起こすのだ。これがスキルありの賃金に対するスキルなしの賃金を上昇させる。けれども、上に述べたように代替の弾力性の推計値のほとんどは1よりも大きいので、\sigma < 1 のケースの実証上の重要性は限られたもののようにおもわれる。

技術の変化は不平等上昇を説明する上で重要なものだろうか? このトピックについて多くの文献があるが、議論の決着にはいたっていない。けれども、過去50 年間において、あるいは過去100年間においてでも、多くの技術の改善がスキル偏向型であったことは疑いのないことのようだ。図2を見てみよう。これは1949年から1995年まで((*2)) の間での大卒者のスキルの供給の指標をプロットしたものだ。それはまた大学教育へのリターンもまたプロットしている。それによると、過去60年間にアメリカ経済ではスキルの供給の顕著な上昇があった。1939年には、アメリカの労働者の6%を少し越えただけが大学を卒業していた。1996年までには、この数字は28%を超えるほどに上昇した。1939年、すべての労働者のおよそ68%のは高校卒業証書をもっていなかった。1996年には、この数字は10%以下にまで落ち込んでいる(Autor, Katz and Krueger, 1998, 表1などをたとえば参照のこと)。 


(*2 原注2:この相対供給の指標は、Autor, Katz and Krueger (1998)の方針にそった、大卒同等者(大卒者+0.5*大学入学しかし未卒業)の非大卒同等者(高卒あるいは高卒未満+0.5*大学入学しかし未卒業)への比率である。大学に入ったが卒業はしていない労働者と高卒未満の労働者を入れておくことは重要である。かれらは大卒や高卒労働者の仕事と同様のものを行って、社会へのスキルの相対供給に影響を与えるからだ。)


Acemoglu HC-and-ID figure2.jpg

図2 1939年から1996年までの大卒プレミアム(の対数)と大卒スキルの相対供給(大卒同等者の労働週を非大卒同等者の労働週で割ったもの)。データは3月CPS(Current Population Survey)と1940年、1950年、1960年の国税調査から。


図2にプロットされたスキルの相対供給は、これらの変化について教えてくれる。しかし、このような供給面での大きな変化があっても、大学教育へのリターンには低下の傾向がなかった──その逆に、この期間中、大卒プレミアムは上昇した。もしスキルへの相対需要が、よって A_{h}/A_{l} が、この期間中安定していたならば、相対供給の大きな増加はスキルプレミアム(大学教育へのリターン)を大幅に減少させていたはずだ。そのようなことが起こらなかったという事実は、スキルへの需要は増加していたというもっとも強力な証拠である。30年前、この期間の半分の時点で、Welch (1970, p.36) は同じ結論に達して次のように述べた:

「平均的教育水準の驚くほどの上昇とともに、[教育への]リターンのレートはなぜ落ちなかったのだろう?...平均的教育水準の上昇とともに本当なら起るはずの教育習得へのリターンの低下を防いだ変化が起った事は明らかだ。おそらく、その変化が...供給が増加しても一定の、あるいはより高いリターンを実現するに十分なほどの...教育への...需要の成長を引き起こしたのだろう。」

それ以来30年の間の展開はこの結論をさらに補強しただけだった。Katz and Murphy (1992)の回帰もまた、この見解を支持している。その回帰には非常に強いタイムトレンドが存在しているが、これはスキルの相対供給が一定ならば、スキルプレミアムは時間とともに大きくなっていくことを示している。よって、このタイムトレンドはスキルの需要の長期的な上昇を捕らえているわけだ。ほとんどの経済学者はスキルの需要のこの長期的な変化を技術によるものとしている。

アメリカ労働市場での観測されたパターンを説明するのには、どれほどの技術の変化が必要だろうか?封筒裏の計算[大雑把な計算という意味]からでも、アメリカでの賃金と雇用の構造の変化が示唆する A_{h}/A_{l} の上昇がどれほどであったかをつかむ事ができる。代替の弾力性、\sigma、についての何らかの値を特定すると、その値から A_{h}/A_{l} の変化を導出することができる。具体的には、


\frac{A_h}{A_l} = \frac{S^{\sigma/(\sigma - 1)}_{H}}{H/L} …(5)


となっているのだ。この中の、S_{H} は賃金支払額における高教育労働者[high education workers in the wage bill]のシェアで、これは国勢調査のデータから入手することができる。


Acemoglu HC-and-ID Table1.jpg

アメリカ労働市場における1940年から1990年までの導出されたスキル偏向型技術変化注意:この表の最初のパネルは、対応するスキルのカテゴリーについての、スキルなしに対するスキルありの雇用と賃金支払い額の比率を表している。これらのデータはAutor, Katz and Krueger (1998)からのもの。大学未卒業とは高卒以上の者のこと(よって、その指標は高卒以上の者を高卒あるいはそれ未満によって割ったもの)。大卒は大学卒業者で、大学同等者はAutorその他に定義による。これは、大卒+0.5*大卒未卒業(対応して、スキルなしは高卒あるいはそれ未満+0.5*大学未卒業と定義される)。下のパネルは異なる代替の弾力性の値について上の方程式(5)をつかって導出した技術シフトを表している。需要指標Dは(A{h}/A{l})^{(σ-1)/σ}と定義される。


表1では、\sigma = 1.4\sigma = 2 について、これらが示唆する A_{h}/A_{l} の値を、大学入学しかし未卒業者、大卒、そしてAutorその他の論文の定義による大卒同等者に関して計算した値を表している。すべてのケースにおいて、A_{h}/_A{l}構文解析失敗 (字句解析エラー): (A_{h}/_A{l})^{(\sigma-1)/\sigma)}

の非常に大きな上昇が示唆されている(構成についてのありえる効果[potential composition effects]に関しても考慮した詳細な分析については、Autor, Katz and Krueger(1998)をみよ)。たとえば、代替の弾力性を1.4と仮定すると、大卒者の相対生産性、A_{h}/A_{l}、は1960年にはおよそ0.030であったが、1970年には0.069へ、そして1980年には0.157へと上昇している。1980年と1990年の間では、それは約3倍の0.470へと上昇した。方程式(3)が示すように、需要指標 D = (A_{h}/A_{l})^{(\sigma-1)/\sigma} の変化が、A_{h}/A_{l} の変化よりも多くの情報を与えてくれるだろう。よって、表1はDの変化も載せている。

表1から見えてくる重要な特徴は、戦後の期間中、技術の変化はスキル偏向型であったようだが、スキル偏向型の変化のペースは1970年代以降加速したようだということだ。実はそのような加速が実際にあったのかどうかについての学問的な議論があるのだが、多くの経済学者は今ではスキル偏向型の変化の速度は過去25年間の方が幾分速かったと考えている(文献は多いが、コンピューターの急速な普及がスキルへの需要を増やしたことの証拠については、Krueger (1993), Berman, Bound and Griliches (1994), そしてAutor, Katz and Krueger (1998)をみよ。Krusell, Ohanian, Rios-Rull and Violante (2000)、Galor and Tsiddon (1997)、Greenwood and Yorukoglu (1997), Caselli (1999), Galor and Moav (2000)、そしてGould, Moav and Weinberg (1999)をみよ。そのような加速の証拠と評価方法についての賛否双方のサーベイとしては、Acemoglu(2000)をみよ)。

ニュージーランドについては何が言えるだろうか?ニュージーランドで使われる技術の多くがアメリカで使われる技術と共通の特徴を持っていて、さらにはそれら技術の多くがそもそもアメリカで開発されたものだと考えても問題はないだろう(Acemoglu and Zilibotti (2001))。よって、アメリカ労働市場でのパターンは多くのOECD諸国全般で、そしてニュージーランドにおいてもこれまで起ってきたことについて示唆してくれているだろう。多くの論文がこの見解を支持する証拠を挙げている。Berman, Bound and Machin (1998) と Machin and Van Rennan (1998) はスキルアップグレードが多くのOECD諸国の同じ産業で起ったという証拠を提出しているが、これはそれらの産業が技術の同様な変化によって影響を受けたことを示唆している。また一方で、Berman and Machine (2000)は中所得国についての同様なパターンをしめす証拠を提出している。すべてのケースにおいて、アメリカからその他の国への、スキル偏向型技術変化の普及のずれがあるようだ。これはこれからの20年年間で、ニュージーランドでの技術的変化が非常にスキル偏向型のものになることを示唆している。よって、不平等と戦う方策なしには、さらなる不平等がこれからやってくる事が予測できる。


『人的資本政策と所得分配』:section3.5

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