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『人的資本政策と所得分配』:Part5

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(このパートの翻訳は okemosさん,WASSHOIさん, 山形浩生さん,optical_frog が担当しました.)


5 人的資本に投資するインセンティブ編集

このパートでは、人的資本に投資するインセンティブを議論する。人的資本政策とその厚生への意味合いを議論するにはインセンティブを理解するのが不可欠である。

 人的資本投資の重要な2種類は、教育とOJT(on-the-job training)である。教育投資が、個人が労働市場に参加するまでに行われるのに対して、訓練は労働市場でのある程度の経験を積むのと同時に、または経験を積んだ後に行われる。しかしながら、これだけが教育と訓練の違いであるということでは決してない。教育はその結果、個人が獲得する人的資本がさまざまな異なった活動に使えるという意味で汎用的である傾向があるが、訓練は、しばしば特定の役割をこなすのに有用なスキルを提供する。おそらくさらに重要なことに、教育[を受けるか否か、何をやるか]の判断は本人とその家族がするのに対し、訓練投資は個人のコントロール下にあるだけではなく、本人と使用者が共同して行われるものだ。

投資の問題に関する一般的な出発点(スタートプレイス)は、投資判断をつかさどる個人が限界費用と限界便益が等しくなるように投資の水準を選ぶという判断だ。教育のケースにおいては、費用と便益に影響する要素が多く、家族が子供の教育投資判断にいくらかの役割を果たすので全体像はさらに複雑だ。

5.1 教育の便益編集

教育への投資の便益を決める鍵となる因子はスキルプレミアムだ。スキルプレミアム(というよりむしろこのケースにおいては、スクーリングの見返り)が大きいとき、スクーリングに当てられるどの一年も労働者により大きな金銭的報酬をもたらすだろう。そういうわけでスキルプレミアムと所得不平等が大きいとき、スクーリングは増加するだろうと予想していいだろう。これは福音(よい知らせ)である。なぜならそれは高い不平等度がスキルの相対供給を増やす傾向をつくりだすと示唆しているし、パート3で議論した経路をつうじて、このスキルの相対供給の増加が不平等を減らすと期待してよいからだ。この見解の支持者は、1980年代にカレッジプレミアムが急激に増加し続けていたときアメリカの大学入学者が増えた事実(e.g. Mincer, 1995, Topel, 1997)に、証拠を見出す。たとえば、Topel(1997)は、アメリカでのその[大学入学者の]増加とスウェーデンでの大学入学者数動向を比較して、アメリカでの大学入学者数の大幅な増加は、より大きな不平等は教育を促して不平等それ自体を是正していく、という見解の証拠である、と主張している。

 それでも、全体としては、これらの影響がどの程度重要でありえるかを考える際に、道しるべとなるような証拠はほとんどない。第一に、よくおぼえておくべきなのだが、パート3で指摘したように、スキルの相対供給の増加の影響はゆっくりと表われがちであるし、たとえばスキルがある労働者の増加に対するテクノロジーの調整のような、これ[スキルの相対供給の増加の影響]を相殺するような多くの効果もあるかも知れない。

 おそらくさらに重要な点として、データをざっとみても、教育に対するリターンの影響は、大きいとか、単純な経済理論によって予言された方向と一致している、という決定的な証拠はみあたらない。Acemoglu and Pischke (2000)は、アメリカ諸州における大学入学者動向を分析した。先に述べた単純な経済学的推測によれば、不平等とスクーリングの見返りが大幅に増加した州ほど大学入学者数が増えていなければならない。それとは対照的に、Acemoglu and Pischkeは、そのような相関関係の証拠を見出せなかった。教育をうけた労働者の州をまたいだ移動が、そのような相関関係の欠如を説明できる可能性はあるが、Acemoglu and Pischkeは、移動の程度は一般的に信じられているよりは限られており、移動がスクーリングに対するリターンの違いをアービトラージしているようにはみえない、と示した。この問題をさらに調査するためには、国同士を比較した証拠をみればいい。Acemoglu and Pischkeは、OECD諸国のなかで、不平等拡大が急速な国ほど高等教育への投資が多かったか調べた。この国同士での証拠も、高等教育とリターンのいかなる相関関係も見出すことはできなかった。これは、スクーリングのリターンが増した1980年のアメリカで、労働市場へ参入する者が大幅に増加したということさえ無視しているのである。

 結論としては、スクーリングのリターンがスクーリングをするかどうかの判断に影響を与えるかどうかの証拠は不明確だし、高いスクーリングのリターンが教育に大きな影響をもつという証拠も明確ではない。だから、市場の自己修正力にたよるのはあまりに楽観的すぎるだろう。


※このパートは長くなったため,セクション5.2以降をセクション別のページに分割しています.

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